― 株式会社インフィニット酒ラボ代表取締役・菅田ゆうさん、
チーズ・日本酒・ワイン 専任講師/プロデューサー圓子チーズさんが語る
「体験を育てる」という仕事
GOEN Stories「末広がりのレシピ」 2026.8.18
東京・日本橋。
老舗の暖簾と新しい挑戦が自然に交差するこの街には、「文化を受け継ぐ人」が数多くいる。今回訪ねたのは、日本橋を拠点に 20年以上、日本酒を“科学”という新しい切り口で伝え続ける株式会社インフィニット酒ラボ代表取締役の菅田ゆうさん。
驚いたのは、菅田さんが売っているのは日本酒ではなく、「日本酒をひも解き、文化をつなぐ学び」だった。
日本橋エリアのキーパーソンにお会いする本企画「GOEN Stories「末広がりのレシピ」の取材でお邪魔したのは、2008 年 8 月から日本橋馬喰横山に移転オープンした株式会社インフィニット酒ラボ代表取締役の菅田ゆうさんと、開校からチーズとお酒の魅力を伝える講師の圓子チーズさん。
二人は⾧年ホテルレストランなどのサービスや酒販店、マーチャンダイジングの現場を経験した後、ここ日本橋で 20 年以上もの間多くの受講生と向き合う中で辿り着いた答えが、「日本酒を科学的に学ぶ」というスタイルだった。その独自の視点から口コミで広がり受講生は年々増加。金融とビジネスの街として知られたこの日本橋を拠点に、日本全国はもちろん、香港、台湾、オーストラリアからも受講生が通っている。こうした広がりを支えているのも、ここで学んだ人たちだ。
菅田ゆうさん(以下、菅田):「日本橋には、⾧い歴史の中で商いを続け、その価値や伝統を受け継いできた老舗が数多くあります。一方で、私たちが扱っているのは、日本酒そのものではありません。知識やサービス、文化といった「目に見えない価値」を届ける仕事です。
それをビジネスとして成立させるのは決して簡単なことではありませんでしたが、それでも20年以上、日本橋を拠点に日本酒と向き合い続けてきました。
私たちが伝えているのも、単なる日本酒の知識ではありません。日本酒は、香りや味わいだけでなく、人との会話やサービスまで含めて楽しむ文化だと思っています。
テイスティングで香味を分析し、それを製法と紐づけて理解する。その先に、その日本酒をより活かすためのサービスや提案が生まれます。そこまで伝えることを大切にしています。
圓子チーズさん(以下、圓子):わたしはチーズ、日本酒、ワインが専門なのですが、特に日本酒はチーズと相性が大変良いです。このスクールの初期の段階から講師としてサポートしてきました。
菅田:私はもともと、福井県のホテルでサービスマンとして働いていました。ホテルで働くうえでは、サービスの技術はもちろん、ワインや日本酒をはじめとしたお 酒や食に関する幅広い知識が欠かせません。
そこで、より本格的に学びたいとフランスのホテル学校へ渡り、サービスやワインについて勉強しました。帰国後は、ソムリエの先輩方が立ち上げた「唎酒師」の資格を取得。その後、プロフェッショナルソムリエへ資格(78 名中唯一の合格者)取得したことをきっかけに東京へ移りました。
東京では日本酒サービス研究会で経験を積んだ後、独立してスクールを開設しました。スクールを始めたのは、日本酒やワインだけでなく、焼酎やビール、チーズなど、酒と食を取り巻く幅広い知識や、その背景にある文化、楽しさまで伝えたいと思ったからです。
そして、どうせやるのであれば、一つのジャンルだけにとどまらず、飲食業界全体を盛り上げられるような場所にしたいと考えました。
「如何なる時代も飲食は無くならない。」
人の人生にも、街にも、素敵なレストランがあり、そこに日本酒やワイン、焼酎やビールがある。そうした食とお酒の文化は、人々の暮らしを豊かにするうえで欠かせないものです。
スクールを立ち上げる際には、チーズやワインの講師をしていた圓子も初期メンバ ーとして加わってくれました。そして今では、受講生の皆さんもさまざまな形で協力してくれて、単なる「教える・学ぶ」という関係を超えた、独自のコミュニティが生まれています。
圓子:本当ですね。
でも、私たち自身が楽しみながら仕事をしていることは大きいのかもしれません。受講生の皆さんから教えてもらうこともたくさんありますし、ここで出会った人たちから、また新しいことが始まる。それが私たちにとっても楽しいんですよね。
菅田:最初から20年先を考えていたわけではないんですよ。
ただ、日本酒やワイン、焼酎、ビール、チーズなど、食やお酒について学ぶことをきっかけに人が集まり、ここが一つのコミュニティになっていった。それが結果として、⾧く続 いてきた理由なのかもしれませんね。
圓子:20年経っても、まだまだここでやりたいことがあります。食の世界は知れば 知るほど奥深いですし、新しい発見もある。だから今でも「次は何をしよう」とワクワクしています。
今後
菅田: 飲食の世界には、まだ伝えたいことがたくさんありますからね。これまで出会ってきた皆さんと一緒に、この場所から食やお酒の楽しさをもっと広げていきたいと思っています。 そして、日本橋は、歴史とブランドが息づく、独自の世界観を持つ街です。 同じ「日本酒が好き」という人でも、深く学びたい人もいれば、もっと気軽に楽しみたい人もいる。これからは、世代や性別、知識や経験を問わず、いろいろな人が一緒に集まれるイベントもやっていきたいですね。
圓子: やりたいですね。スクールの卒業生も各方面で活躍していますし、そこからまた新しいつながりが生まれたらうれしいです。
菅田: やっぱり、「ご縁」って運命だと思うんです。
人との出会いから、思いもしなかった未来が生まれる。
たとえば、日本酒の香りをテーマにした POP-UP なんかも面白いですよね。日本酒をよく知っている人だけでなく、これまであまり触れてこなかった人にも、香りを入り口にその世界を楽しんでもらう。
そういう新しいことに挑戦しながら、日本橋という街で、また新しいご縁をつくっていけたらと思います。
今回取材したキーパーソンと場所は…
インフィニット酒スクール
2000年代から続く日本酒の学びの場。日本酒の基礎から、味わいの変化まで、科学的なアプローチを取り入れた講座を展開している。国内外から受講生を迎え、イベント開催も行う。現在は AI やアプリを活用した味覚の可視化にも取り組むなど、日本酒文化を次世代へつなぐ学びを提供している。
- 東京都中央区日本橋横山町3-4 プライムアーバン日本橋横山町 303
- 03-5652-1088
編集後記
日本橋には、モノづくりにはじまる老舗企業から、消費者をつなぐスクールやイベントの活躍も見逃せません。古き良き街の魅力を理解しながら、新たな風を吹き込んでいるその活動には、深い日本酒、ワイン、チーズの愛が脈々と流れています。その先には、未来の消費者と日本各地の蔵、地域をつなぐ強い使命感があります。



